早稲田大学先進理工学部応用化学科の桐村光太郎教授の研究室からクエン酸濃度を迅速に測定できる新規技術が開発されました。

2013年6月21日に日経産業新聞に報道されたこの技術は、online Journal(下記URL参照)に投稿され、本年5月22日に公表されました。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0064597
また、関連の研究内容が本田助手(当時)により早稲田応用化学会報(No. 85, 34 (2012))に紹介されています。

クエン酸は、レモンやミカンなどの柑橘類などに多く含まれ、爽快な酸味を示す有機酸です。生体(細胞)における重要な代謝中間体で、TCAサイクル(クエン酸サイクル)の出発物質です。工業的なクエン酸製造は、糸状菌Aspergillus niger(クロコウジカビ)を用いる発酵法によって行われており、2011年の世界生産量は、約175万トンに達しています。A.niger によるクエン酸発酵機構や関連する代謝機構についてはバイオサイエンスやバイオテクノロジーの観点から長い間研究が続けられています。
クエン酸は、食品工業ではソフトドリンクや菓子類における酸味料として、また、キレート剤やpH緩衝剤などの特異的性質を示すため、金属処理剤や機能性樹脂のモノマー、洗剤のビルダー(軟化剤)などとして広い分野で使用されています。医療の面では、ヒト尿中のクエン酸濃度が腎臓結石や前立腺がんの診断に有効とされています。したがって、クエン酸の迅速な選択的かつ定量的に検出する技術を確立することは極めて新規かつ重要な研究テーマです。

今回、桐村研究室では、クエン酸特異的蛍光タンパクインジケータを創製し、短時間、超微量、高精度でのクエン酸の検出と定量に成功しました。蛍光測定を利用したクエン酸特異的な検出試薬(蛍光タンパク)の開発と定量法を提示し、遺伝子としても利用できることを示した点が重要で新規性があります。まず、遺伝子工学を利用して、クエン酸と高い選択性をもって結合する細菌のヒスチジンキナーゼ(CitA)の分子内(種々の箇所)に、環状に変形させた緑色蛍光タンパク質(cpFP)を組み込むことにより融合タンパクを多数作製し、その中からクエン酸特異的な新規蛍光タンパクインジケータとして有望なものを選択しました。CF98と命名した蛍光タンパクインジケータでは、蛍光シグナルがクエン酸を添加すると413nmにあるピークの減少と比例して504nmにあるピークが増加して変化し、クエン酸量と比例することを明らかにしています。さらに、CF98がクエン酸をin vitroで0.1から50mMの濃度範囲で高い選択性で、しかも数μ秒でクエン酸の検出に利用できることも確認しています。イソクエン酸やリンゴ酸、マレイン酸のような他の有機酸とは反応しないことから、クエン酸の特異的検出が可能です。すなわち、種々の有機酸が混在する試料でもクエン酸だけを選択的に定量することが可能な検出技術です。また、クエン酸特異的蛍光タンパクインジケータは遺伝子をクローニングしてあるので、異種の細胞に遺伝子として導入し、当該タンパクを細胞内で作らせ、細胞内のクエン酸を検出することも可能です。使用例として、大腸菌に遺伝子を導入し細胞内クエン酸濃度の推定値を示すことで、CF98のin vivoでの利用に成功しています。すなわち、細胞を破砕せずに生きたままで細胞内のクエン酸濃度を検出可能なことを検証しています。
 CF98を利用することによって、in vitro における短時間、超微量、高精度でのクエン酸濃度の測定技術が開発され、その遺伝子を利用することによってin vivo における使用、すなわち非破壊的かつリアルタイムでの細胞内クエン酸の検出も可能になりました。

(資料提供:桐村光太郎主任教授、作成:広報委員会 相馬威宣)