新企画の“先生への突撃インタビュー”もスタートして半年になります。本企画は、教室とOBとの連携を強めることで、早稲田大学の応用化学科が、今後ます ます隆盛になってもらいたいと考えたOB会活動のひとつです。 企業の新製品開発などに役に立つ情報を、教室の先生方に提供していただき大学と企業間の情報交流のキッカケが生まれてくるようにしたいと考えております。 可能な限り、専門外の素人に理解しやすいような内容とするように心がけてゆきます。
5番手として、常田 聡 助教授にご協力をお願いしました。
常田先生は、武岡先生と同じように、今春4月の理工再編で、先進理工学部・研究科の生命医科学科・専攻に異動されます。先生は、東京大学工学部化学工学科の博士課程を出られた後、千葉大学、理化学研究所での研究をされて、1996年に当応用化学科に奉職されておられます。
現在、新しい領域のご研究に精力的に取り組まれると共に、若手の技術者の育成にも力を入れてこられています。これからも同じ早稲田の先進理工学部・研究科のお仲間としてお付き合いをお願いいたします。
平田 彰先生のもとで、教員をスタートしました。自分の研究内容を説明するのはあまり得てではありませんが、その理由として、一つの研究分野を体系的に、深く追求してきていないことがあげられます。しかし、これは自分の特質として、いろんな分野に興味があったことによると思います。昔から環境問題に興味を強く持っていたことと、バイオの分野に将来性を感じていたことで、微生物による水処理の研究に取り組むこととなりました。
基本には、化学工学としてのモノの考え方で、研究に取り組んできました。
ワセダにきて、新しい研究に取り組むこととなりましたが、東大時代の自分の尊敬する先生の考え方に影響を受けていまして、10年単位で、研究の分野を新たにすることで、常に新鮮な気持ちを持ち続け、自分達の研究グループが全体として活性を維持できるようにしたいと考えています。 自分もワセダへ来て10年が経ち、研究のスタート時の研究室全体としての勢いを思い出しています。現在、水処理に関する研究分野ではそれなりにトップグループの仲間入りができるようになってきた反面、研究室全体が守りに入ってしまっているように感じています。10年前には、新しいことに取り組むことで、挑戦者として、なんでもやってやろうという気持ちがありました。
来年4月より、生命医科学科へ異動しますが、ちょうど研究を本格的に始めてから10年で、また新しい領域へ取り組む機会をもらえたことも、自分としては、タイミングが良く、ぜひ積極的に考えていきたいと考えています。
バイオフィルムの硝化菌分布
(FISH法による観察例)
微生物による水処理の研究で、活性汚泥法というプロセス中の微生物に興味を持つようになりました。ある部分ブラックボックスのままで、産業利用されてきたプロセスではありましたが、さらに内容を明らかにすることにより、効率の良い水処理が可能になるのではないかと考えました。
90年代頃から、分子生物学への取り組みが普及し、急速に学問として進歩してきて、微生物を遺伝子でつかまえることで同定できるようになってきました。そこで、この分子生物学的手法を駆使して活性汚泥中の微生物生態系を明らかにする取り組みを行いました。一方、微生物のスクリーニング法の研究にも取り組みました。
微生物の単離培養は0.1%程度が分離の限界で、世の中に存在する微生物の99.9%は単離できていません。しかし、現在0.1%単離培養された微生物の範囲内だけでも、有効活用されて醗酵工業が栄えているわけです。 なぜ99.9%の微生物が単離培養できないかに興味を持ち、現在そのメカニズム解明にも取り組んでいます。
研究テーマとしては、さらにバイオフィルム(水処理分野では、生物膜法という)の研究に取り組んでいます。バイオフィルムは、微生物の細胞が何十層にも重なって形成された集合体であり、フィルムの部分部分で住む環境が違っています。酸素濃度などの違うところへいろいろな微生物が住んでおり、住みやすいところに住んでいるのですが、これらを数学的に表現したいと考えました。同じように生態学では、動・植物の相互作用で、自然界がなりたっていることを研究していますが、自分達は微生物についての生態学の研究を行っています。
“システム微生物生態学(System Microbial Ecology)”という分野名を私たちが勝手に付けたわけですが、世界でもおそらく10グループ程度だけが研究を行っている新しい研究分野です。この研究分野は、数学だけでなく実験的に証明し理論と合わせる研究で、化学工学の考え方が最も適した学問だと考えています。化学工学はもともと現場の複雑な現象を扱う学問であり、 またいかに複雑系を単純化させて、俯瞰的に見るかという考え方が得意なので、今まで分からなかった「微生物生態系を決めるルール」のようなものが、明らかになってくると良いと思います。
今までは、微生物を対象とした研究を行ってきましたが、これからは、「微生物とヒトとの関わり」という視点で研究を進めていきたいと思います。たとえば、腸管上皮細胞と腸内細菌とのあいだでどんな免疫応答があるのかを解き明かしたいと思っています。また、細胞の動きを数学的に表現できるようになってきたことで、より普遍的な研究となり、この考え方をいろいろな分野で使えるようにしていきたいと思っています。例えば、ガン細胞が増殖する現象や細胞内での薬物の効き方なども数学的に表現してみようとしています。
一方、病気の予防や早期治療を目的とした遺伝子診断技術の分野にも興味があります。現在、マイクロリアクター技術を用いて、DNAの多くの検体をスピーディーに、さらに安価に分析する装置の開発に取り組んでいます。 この装置化に成功するためには、いろいろな分野の専門家が協力していくことが必要ですが、ワセダは、このような学際型研究を推進していく環境に優れていると思います。現在、非常にホットな分野ですが、医療の分野との接点は沢山あると思います。
生命医科学科の卒業生が、各分野の人達の橋渡し役になって欲しいと思っています。それには、お医者さんと同じ言葉で会話ができるような人材を育成することが必要だと考えています。文化の違う専門の人達がいっしょに仕事をする難しさはあると思いますが、これができた時には、これまでにない大きな成果が期待できると思います。
自分が現役時代に学んだ東大のOB会では、学校の教室側がまったくかかわらない運営を行っていました。これに対して、早大応化会では、教室の先生方が役員会にもかならず出席をされておられます。このように教室とOB会が密接な連携を取ることはとても大切なことだと思います。
あるOBの方から、OB会へ参加するメリットが分からないという意見を聞いたことがありますが、そもそもOB会が自分達のためにあると思うこと自体が間違いなのではないかと思います。自分の出身の、今まで育ててもらった学校への恩返しとして、後輩すなわち現役学生を支援することこそが本来のOB会活動ではないでしょうか。OB会に力を入れることができないというのは、OBの方々が、ワセダからもらったものがほとんどないと感じているからではないでしょうか。もしそうだとしたら、それは教室とOB会の両方に責任があると思います。
そういう意味では、30、40代のOBを今から啓発しても遅いのではないかと思います。むしろ現役の学生に対して、教室とOB会が一体となってしっかりした対応をすれば、卒業しても、自分達がしてもらったことを、今度は後輩の現役学生に還元してゆくという良い意味での「繰り返し」が生まれてくるのではないかと思います。
今回の企画で、就職フォーラムへの期待は非常に大きいと思います。学生からも、先輩のOBとの対話の場を期待しているという発言が多くありました。最近の学生は、似たような考えをもつ同世代の人達としかうまく付き合えず、結果として視野も狭くなりがちです。例えば留学生が研究室に一人入ってきても同じことで、学生は、文化の違う、言葉もちょっとしか通じない留学生をどうしても避けてしまう傾向があります。社会経験豊かな先輩とざっくばらんなお話ができる機会は学生にとってとても貴重だと思います。
最近の、応用化学会のホームページの企画で、異分野で活躍する若手OBの活躍の紹介がされていますが、非常に良い企画だと思います。学生は皆と同じ路線に乗っているのが楽という考え方が強く、それによって将来の選択肢を自ら狭めているように思います。ユニークな道を選択した若手OBの活躍する姿が紹介されることで、学生に大いなる刺激を与えていると思います。これらの企画は、ぜひ継続していただけると、OB会の存在感が強まると思いますので期待をしています。。
自分の力を信じて、チャレンジして欲しい。若い人達はガムシャラにやることはカッコウ悪いと感じ、熱血漢みたいのはあまり好まないようです。しかし、失敗を恐れていてはなにもできないと思います。 自分の道を早くに見つけて欲しい。独自の視点で考え、見て欲しい。学校はあくまでも通過点にすぎないわけで、社会に出て、自分で勉強を続けていってもらいたい。
バックグランド(年齢、国籍など)の違う人達と積極的に会話をすることが、大人になる道として大切なことだと思います。仲良しごっこも20歳を過ぎたらおしまいにして、一人で生きてゆくことを日々考えてください。自我が形成されてくれば、おのずと他人との違いも見えてくることと思いますので、ぜひ頑張ってください。
(文責 広報委員会 委員 亀井 邦明 取材日;2006/10/24)
常田先生の研究や経歴について、より詳細を知りたい方は、以下のページも併せてご覧ください。