先生への突撃インタビュー(その6) 菅原先生

活性化委員会・広報委員会 委員長 長谷川和正

新企画の「先生への突撃インタビュー」もスタートして二年目になります。本企画は、教室とOBとの連携を強めることで、早稲田大学の応用化学科が今後ますます隆盛になってもらいたいと考えたOB会活動の一つです。
  企業の新製品開発などに役に立つ情報を、教室側の先生方に提供していただき、大学と企業の情報交流のキッカケが生まれてくるようにしたいと考えています。可能な限り、専門外の素人にも理解しやすいような内容とするように心がけてゆきます。
  本年は本企画の6回掲載を予定しております。ひき続き活用をしていっていただきたいと思いす。

 六番手として、菅原 義之教授にご協力をお願いしました。
  菅原先生は、本学科の第33回のご卒業で、博士号を取得と同時に米国MITポスドク研究員となり帰国後本学科の専任講師から助教授を勤められ、さらに仏国Montpellier第二大学訪問研究員をされた後、2000年より早稲田大学教授として本学科の発展のため、若手後輩の育成に力を入れていただいております。

第6回  菅原 義之 教授(無機化学研究室)

先生が研究に本格的に取り組み始めたキッカケはなんですか?
〜〜〜海外で新しい分野の研究に取り組む機会を得ました。〜〜〜

菅原教授写真

加藤先生、黒田先生のご指導で、有機化合物と層状構造の無機化合物を複合化させたハイブリッドを作製して、これを前駆体として熱分解することにより非酸化物を合成する研究に取り組み始めました。当時としてはかなり先端的な研究テーマをいただいたわけです。その後、より有機合成化学的な手法で合成した有機金属化合物を作製し、これを前駆体として非酸化物セラミックスを合成する研究を、MITで7ヶ月ほど行いました。

自分はセラミックスをやっていたので有機金属化学が専門のMITのSeyferth教授に呼ばれたのだと思います。しかし博士課程を終えたばかりで異分野での経験も豊富でなく、またこれまであまり経験していなかった実験テクニックが必要でしたので、米国に行ってから苦労が多かったのは確かです。その分吸収するものも沢山あり、現在の研究の基盤が作れたように思います。

 

技術的な内容で、先生がポイントと考えておられる点はなんですか?
〜〜〜窯業からセラミックスへ新しい視点で研究を始めました。〜〜〜

無機ー有機ハイブリッド材料

層状物質を利用した
無機ー有機ハイブリッド材料
(写真をクリックすると拡大されます)

ハイブリッドにフォーカスしてこの数年は研究を展開しています。合成技術が基本にありますが、物性に着目した材料への展開や機器分析などの分析評価技術などもポイントになってきています。
  無機−有機ハイブリッドを熱分解してセラミックスを得る方法は、30年以上研究が行われています。窯業の時代は、粉を焼き固めてセラミックスを作っていたのですが、ハイブリッドを熱分解する手法は新しいセラミックスの世界を切り開きました。こうした研究の初期には、有機溶媒に可溶な前駆体を合成し、フィルムやファイバーに展開することで研究は終わっていました。しかし、近年では有機合成化学と無機合成化学との組み合わせで合成するステップからスタートして、最終的には高品質なセラミックスが得られるようになりました。こうした研究の発展を通して、分子レベルで前駆体の構造を制御したり、熱分解のプロセスを制御することができるようになり、高機能を持ったセラミックス材料が作られています。
  このように有機化学から無機化学まで、さらに有機合成から無機合成までと非常に広範囲の領域にわたっているのがこの研究分野の特徴であり、その結果として一人の研究者がすべてをカバーする場合は、どうしても広く、浅くとならざるを得ない部分もあります。
 一方、ハイブリッドをそのまま利用すると、有機材料と無機材料の性質をあわせもった材料となることが期待されています。そうしたハイブリッドの合成に関する研究では、ナノシートからなる層状構造を持った無機化合物に着目しています。ナノシートは昔はこのような呼び方はしていませんでしたが、本質はすでに見えていたように思います。そして現在になってナノシートとして認識されるようになってきているわけです。
 現在では一枚一枚ナノシートをバラバラにする技術も確立し、ナノシートを直接観察できる時代になってきました。もちろんナノシートに限らず、様々なナノスケールの構造を直接見て、取り扱えます。ナノスケールのことは推定するしかなかった時代に比べて、現在ではますますハイブリッドの分野が広がりを持てるようになってきています。

これからの研究の展望を聞かせてください。
〜〜〜ナノハイブリッドの研究分野は未開の大地です。〜〜〜

無機のモノを無機から作ることはかなりのレベルで見えてきていると思いますが、ハイブリッドに関してはまだまだ未開の大地という感じです。”サイズを小さくしていったときに、それでは有機と無機の界面はどう設計するべきなのか?”など、まだまだナノハイブリッドの領域では興味が尽きないテーマが沢山あります。これからの研究展開により、ナノハイブリッドは応用化学分野でのバックボーンの一つとなってゆくことと思います。

大学と企業の連携についてどうゆうことをお考えですか?
〜〜〜大学では基礎研究を担当してコラボレーションを行ってゆきたい。〜〜〜

お声をかけていただければ可能な限りお手伝いをしていきたいと考えています。自分達がもつベーシックな技術や知識を利用していただくのが、私たちの力を役立てていただくのに一番いい方法であろうと考えています。
  ニーズは企業側にあって、このような新しいモノができたのだが、どうしてできたのかとか、プロセスは組み立てたのだが、理論的にどうなっているのかなどについて、自分達が研究してきた合成の手法や分析評価の手法などのノウハウを利用して課題の解決に取り組むことは、学生達にとっても自分の研究が直接世の中に役立っていることが見えることになり、教育の現場としても大変良いことだと考えています。
  企業での応用研究などで、裏つ゛けを取る必要が出てきたときなどはぜひ連絡を取ってみてください。
  このハイブリッドの研究分野はお話したように広範囲の知識を必要としますので、チームを組んで進めることは大変有意義だと思います。物性評価やモノづくりなどそれぞれの専門家が、企業や大学の間でコラボレーションをしていくことが重要です。自分達ではじめから最後までカバーする事も可能ですが、大変な労力が必要であり、また研究のスピードを確保することは大変な事だと考えています。

応用化学会の活動への期待を聞かせてください?
〜〜〜「就職相談室」や「企業ガイダンス」への学生の期待は大きい。〜〜〜

来年度の就職担当として応用化学会の企画の「就職相談室・フォーラム」や「企業ガイダンス」への学生達の期待は非常に大きいと思います。就職活動は昔に比べると今の学生達にとって大変なプレッシャーになっているように感じます。
 理由の一つとして、現在の就職活動が「自分探し」になっている点があると思います。優秀な学生達は、今までは親や学校が準備した路線や環境の中で、それを踏み外さなければ成功してこれた訳です。しかしこれからは社会人として世の中に出てゆくのに決められた道はなく、むしろなんでもやりたいことが出来る時代の中で、企業側の要求は厳しく、自分として将来どうしたいのかを明確にもつことが要求されています。決められた道を、決められたルールの中では成功してきたのが、就職ではまったく道なき道を自分で選択してゆかなくてはならないところにブツカッテいるのだと思います。
 学生も将来への高い目的意識を持っていないと企業の要求に合わないため、このようなことを考えてゆくために、先輩の実際の経験をお聞きできる「就職相談室・フォーラム」は非常に有効です。若手から年配のOBまでの親身な相談がなされるところがOB会活動の重要な利点の一つとなっていると考えます。就職について具体的な会社を決める情報よりも、企業人としての考え方や就職先の決め方についてアドバイスをしてもらい、就職活動を側面から支援をしてもらえるのが一番ありがたいと考えています。
 さらに企業についての学生の情報収集の手伝いとしては、「企業ガイダンス」が有効となっています。“就職の達人”を読んでいても、企業の面接ではネタがすぐバレテしまいます。3、5、10年後に自分はどのようになっていたいのかをイメージするためには、先輩達の生の声を読ませていただく事が大変有効だと思います。

21世紀を担う皆さんへ、メッセージをお願いします。
〜〜〜どんどん新しいことにチャレンジをしていって欲しい。〜〜〜

優秀な学生諸君が増えているのですが、同時に皆さん失敗を恐れてなかなか新しいことへチャレンジしなくなっているように思います。私が専門領域が異なる米国の研究室にいったり、フランス語をほとんどしゃべれないのに仏国へ研究員として出かけていったのはかなり無鉄砲であったとは思いますが、いま振り返ってみると、これらの経験を通して得られたものは大変大きかったと思います。失敗を恐れていてはなにも生まれてきませんし、若いときのチャレンジは成功すればそれは自信になります。また、若い頃なら、万一失敗してもそれから学ぶことは非常に多いし大きいと思います。若い皆さんが今だからこそやれることをぜひチャレンジしていって欲しいと思います。
どんどん新しいことにチャレンジしていってください。

(文責 広報委員会 亀井 邦明  取材日 2007/01/24)

菅原先生の研究や経歴について、より詳細を知りたい方は、以下のページをご覧ください。

菅原研究室ホームパージ
http://www.f.waseda.jp/ys6546/japanese/intro.html
応用化学科 研究者向けウエブサイト内の菅原先生の紹介
http://www.waseda-applchem.jp/lab/lab007.html?m=la
早稲田大学21世紀COE 実践的ナノ化学教育研究拠点内の菅原先生の紹介
http://www.waseda.jp/prj-prac-chem/member/sugahara0.htm