第14回 交流講演会速報

日時:2009年11月21日(土)14:00〜15:30
場所:西早稲田キャンパス57号館201大教室


演題:「低炭素社会へ向けたエネルギーの多様化とビジネスモデル」


講師 三浦千太郎氏
現職
潟Gネルギーアドバンス 代表取締役社長 
東京ガス鰹辮ネエグゼグテイブ・スペシャリスト
略歴
1971年 早稲田大学理工学部応用化学科卒(石川研)
1971年 東京ガス鞄社
2007年 現職


河村宏会長の開会挨拶と講師紹介に引き続き講演会が開始されました。
三浦氏との先輩と後輩としての交友や、エネルギー資源をめぐっての仕事上のお付き合いを披露され、本日の講演会講師として招いたいきさつを述べられました。
講演会にはOB・教員46名、学生38名等およそ90名が出席、内10数名は資源・機械・建築等他学科からの参加でした。演題が今日の最大の関心事であることが実感されました。

<講演の要旨>

コペンハーゲンで開かれる気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)を前に、将来のエネルギー情勢を網羅した時機をえた講演であった。この世界温暖化防止対策会議には、鳩山首相を始め世界の指導者が集うが、世界の気候に影響を及ぼすような画期的な対策の一致はむつかしいと言われている。

環境問題の捉え方は各国まちまちで、対応次第で経済回復を遅らせる危険があり、高いコストと増税に繋がる可能性がある為、それぞれの国が温室効果ガス排出の上限をコミットする事は難しい。 一方CO2排出削減に向け十分な努力をしていないと見なされた企業や国には、今後「炭素税」のような輸入課徴金が課せられると言われている。

今、温室効果ガス削減対策を実行しないと更なる気候変動を引き起こす。それが、貧困、住民の大規模な移動、国外への移民、水不足、病気の蔓延、嵐の増加、激化をもたらす。その結果、国家の破綻、紛争を増加させる。

気候変動は、経済的、人道的な懸念であるのとおなじくらい安全保障上の問題なのである。

かかる情勢下、ガス事業者からの視点で、近未来の我が国のエネルギー政策を講演戴いた。


  1. エネルギー情勢
    • 全世界の主燃料である石炭、LNG等化石燃料価格は、原油価格にリンクして上下する。
    • 原油価格は、需給バランスで決まるファンダメンタル部分と地政学リスクや投機マネー等によるプレミアム部分との組み合わせで決まるが、プレミアム部分が1/3と言われている。
    • 2004年中国の原油大量買付けがトリガーとなり、その後のサブプライムローンの破綻から投機ファンドも流れ込み、原油価格は、2008年に瞬間的に$147/バレルの最高値を記録した。
    • BRICSの原油調達力は今後も落ちず、原油価格は$60〜80/バレルを維持し、以前のレベルに戻らない。2030年の需要推定は現状の1.5倍と見込まれる。
    • 我が国の一次エネルギー供給構造は、従来の石油依存から、LNG、原子力等多様化が進んでいる。1973年から2006年までの30数年間で、石油が76→44%へ、石炭15→20%へ、LNG2→15%へ、原子力1→11%へと構成が変化している。
    • 3年毎に見直される我が国の長期一次エネルギー供給構造最新見通しでは、2030年には、石油35%、石炭19%、原子力17%、LNG16%とされている。
  2. 低炭素を軸とした社会の動き
    • 2006年全世界のCO2排出量は280億トン、国別では、日本4%、米国20%、中国20%、インド4%、その他44%である。
    • 2050年の見通しでは、発展途上国が61%、米国18%、米国を除く先進国(含む日本)21%となり、削減対策を採らないと排出量は現状の2倍となる。

    我が国のエネルギー政策目標
      *2020年までにCO2排出量削減1990年比25%減目標

    その基本策は、
    1. 基本は、省エネと再生可能エネルギー積極導入の二本立てである。
    2. 再生可能エネルギー供給を一次エネルギーの10%を目標とする。
      *太陽光、太陽熱、風力、バイオマス他

    消費部門別では、
    1. 過去30数年間のエネルギー消費構造変化から、民生(2.5倍)及び運輸部門(2.1倍)の削減対策を強化する。(産業部門はこの間、省エネが徹底され増加していない。)
    2. 具体的な3対策イメージ
      • 太陽光、太陽熱発電を現在の55倍にする。
      • 次世代車(エコカー)を新車の90%、保有車の40%にする。
      • 断熱住宅(エコハウス)を新築・既築ともに100%とする。
    また政策面の具体的措置として、
    1. 石油代替エネルギー法の見直し
      • 従来の脱石油政策から非化石燃料利用と高度利用を義務付け政策とする。
      • 非化石エネルギーの開発、導入の促進を計る。
    2. 太陽光発電の新たな高価買取り制度
      • 従来の発電装置設置補助金政策から、余剰電力の高価買取り制度政策に変更して、太陽光発電の普及を促進する。(家庭用10kw以下の場合・¥48/kwh)
    3. 排出量取引制度の施行
      • CO2排出総量規制義務と排出取引制度との二本立て
      • 排出目標の超過達成分を販売できる。
  3. 低炭素社会に向けたガス事業者の将来ヴィジョン
    1. 都市ガスの用途別消費状況
      • 過去30年間、工業部門で他エネルギーからの転換を計り、都市ガス消費量は3.6倍の360億m3に拡大したが、高効率機器の導入も相俟って、我が国のCO2削減に大きく寄与した。
      • 過去35年、家庭用各種エネルギー消費原単位シェアーは、電力が18.3→38.8%と大幅に増加し、LNGは微増の21.2→25.1%、灯油は減少し30.4→24.4%となったが、この先10年は、電力が更に2割増加する見込みである。
    2. 地球温暖化防止へのパラダイムシフト
      • 化石燃料主体から、原子力と再生可能エネルギー併用への転換は、最強のCO2削減対策であるが、民主党公約の「2020年までに1990年比25%減」には、供給サイドで間に合わない。
      • 再生可能エネルギーは自然との闘いで、密度、むら、適正距離とコストパーフォマンスに課題がある。その大型化には新たな環境破壊が付いて回り、バイオマスは食糧とのトレードオフがある。原子力には、立地、廃炉、最終処分の課題がある。
      • これに対して、LNGは化石燃料の中で、最もCO2排出係数が少なく、輸送能力と瞬発力に優れ、分散電源対応にも適応性がある。LNGを如何に使いこなすかがCO2削減対策の鍵である。
    3. 低炭素社会に向けたガス事業者としての将来ビジョンと提言
      1. 資源調達の多様化と安定供給対策
        • 現在リスク回避対策として、多くの地域から分散調達を行っており、中東依存度はわずか13%、政情の安定している環太平洋地域から79%を購入している。
        • 引き続き政府に対して、資源外交、上流への低利融資政策を求める。
        • 更なる長期安定調達策として三点ある。
          1. メタンハイドレードの開発と調達(推定埋蔵量400兆m3
          2. 非在来型LNG開発技術の推進(同912兆m3
          3. 中小在来型LNG採取技術開発推進
      2.  
      3. 長期的視野によるインフラ整備
        • 欧米に比し、陸揚げから需要地までのパイプライン整備が格段に遅れており、政策とのパケージで、タンカー、気化設備等を含めたインフラ整備を行う。
        • 実現には、規制緩和、公的支援が不可欠である。
      4. LNG活用によるCO2削減ポテンシャルについて
        *我が国の削減ポテンシャルは、年間4,700万トン以上と推定される。
        • 手段―1.他の化石燃料をLNGへ転換する。
              欧米に比し、日本の一次エネルギーに占める割合が圧倒的に多い石油をLNGに転換する。
        • 手段―2.エネルギーの高度利用
              コージェネ、高効率機器の広い普及を計る。
        • 手段―3.スマート・エネルギー・ネットワーク化を計る
              LNG等化石燃料の高度利用と再生エネルギー利用の併用を個別対応と面的な
              総合ネットワーク対策で推し進める。     
          • 例―1.ごみ焼却場廃熱を応用した地域冷暖房
          • 例―2.ローカルに発生するバイオガスを高価格で購入、LNGに混合する。
      5. 将来は水素社会実現を目指す
        *水+LNG→水素+CO2 (2H2O+CH4→4H2+CO2
        CO2は回収、貯蔵する。
      6. 2,050年に向けた長期シナリオ
        • 1.LNGの普及拡大
        • 2.LNGの高度利用(高効率機器の普及拡大)
        • 3.再生可能エネルギーの最大導入
        • 4.スマート・エネルギー・ネットワーク化の推進
        • 5.ローカル水素ネットワーク社会の展開
  4. エネルギーアドバンス社について
    1. 設立背景
      1995年の規制緩和により、120年間独占されてきた電気、ガス事業に新規参入が認められた。東京ガス社は、規制緩和対応策として、エネルギーサービスに付加価値を付ける事業を立ち上げたが、迅速性、顧客対応の多様化対応等から、2002年に当社を100%出資子会社として独立させた。
    2. 事業内容
      • オンサイト・エネルギーサービス事業
      • 地域エネルギーサービス事業
      • コージェネ設備工事&保守事業
      • グリーンサービス
    3. 資本金等
      • 資本金:30億円
      • 売り上げ:684億円/2008
      • 従業員:326人

    「地域エネルギーサービス事業」では新宿や幕張の高層ビル群地域などの地域冷暖房の実績をもち、また「オンサイト・エネルギーサービス事業」は設備をエネルギーアドバンス社が建設・保有し、エネルギーにとどまらず水・空気など様々な地域のニーズを充たすワンストップサービスを提供する新しいビジネスモデルで、横須賀の米軍基地や富士フィルムの足柄工場の例を説明、欧米に比較して遅れている地域的なエネルギー効率化のビジネスにかける熱い思いを語られた。

<懇親会>

講演会に引き続き場所を56号館理工カフェテリアに移し、懇親会が開かれ、講師を囲み談笑に花が咲きました。

(文責:交流委員 岩井義昌/岡本明生 写真:広報委員会)