早稲田応用化学会・第24回交流会講演会の報告(速報)

日時 :2012年4月13日(土)15:30〜17:00  
場所 :57号館 201教室  引き続き 63号館 馬車道で懇親会


講演者 :御林 慶司氏
  • 1976年応用化学科卒(新26回生、土田研 修士)
  • 1978年富士写真フイルム(株)入社、足柄研究所配属
  • 2011年同社取締役執行役員 FPD材料事業部長兼研究所長
  • 2012年同社取締役執行役員 エレクトロニクスマテリアルズ事業部長 現在に至る


演題 :富士フイルムにおける研究開発

〜感光材料・ディスプレイ材料・電子材料ビジネスを通じて学んだこと〜


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河野交流委員長の本日の講演会に関する案内、下井応用化学会副会長の挨拶、演者と同期の平沢教授による略歴紹介に続き、教員・OB・OG・随行者 83名、学生40名、合計123名にのぼる多数の聴衆を対象に講演が始まった。



御林慶司氏の講演要旨:

  • 冒頭で演者が富士フイルム入社以来カラーフィルム感光材料の開発や液晶ディスプレイ用材料の開発マネージメント、半導体材料関係会社の社長など様々な経験をなされたことの紹介、また富士フイルム現状についての紹介があり講演が始まった。
  • 富士フイルムの主力商品であったカラーフィルムの世界総需要は、今やピーク時の2000年に比べ僅か数パーセントにまで縮小している。それに対して同社は、(1)イメージングシステムの設計・評価、精密光学、(2)高機能材料(機能性有機化合物、無機化合物)、(3)精密薄膜塗布、精密製膜、(4)総合解析力、というようなコア技術の棚卸しを行い、従来の写真フィルム事業の枠を大きく超えて、@メディカル・ライフサイエンス分野;医薬品・化粧品など、A高機能材料分野;フラットパネルディスプレイ材料・半導体材料・タッチパネル材料などに事業転換してきている。
  • 演者は、カラーフィルムの市場が急速に拡大していた1978年に入社し、研究所で先輩社員に付いて仕事を覚えるところ(丁稚奉公時代;演者の表現)から始まりカラーフィルムの商品開発グループを統括する立場となった後、フラットパネルディスプレイ材料の研究所長および事業部長、半導体材料の関連会社社長や事業部長と、同社の事業転換をそのまっただ中で経験してきている。講演ではインスタント写真、液晶ディスプレイ用の光学補償フィルム、半導体プロセス用のフォトレジストを事例に、具体的な技術内容また演者がその業務においてどのように行動し何を学んだのかが話された。
  • インスタント写真の開発研究においては、その色再現性や温度依存性(低温使用時でも美しい発色を得る)等のために酸化還元反応を促進する電子伝達剤や前駆体からの色素放出を促進する求核性化合物を新規開発して性能改良を図ったことが例示され、かかるプロセスを現象解明し機能性化合物の反応系を組み立ててゆく技術や姿勢が富士フイルムの事業転換を支えるベースになっていることが示された。またインスタント写真ではカメラも自前開発であったため化学者のみならずカメラの機構設計者や製造部門との協調が大切であったことも話された
  • 続く液晶ディスプレイ用光学補償フィルムの話題では、同社が高いシェアを占めているWVフィルムについて、その光学補償の原理説明、それを達成するためのディスコティック液晶(円盤状液晶分子)の分子設計コンセプト、画質改善効果などが紹介された。またこの開発に研究所長として関わった立場から、こうしたBtoBの領域においては、各顧客・各関連会社と継続的なWin−Winの関係を築くことが極めて重要で、良好な関係と継続的な性能改良努力の両方あってこそ継続的成長が得られるとの演者の理解が強調された。
  • 半導体材料の話題では、顧客企業もグローバルに広がりかつ自社も多種多様な国や文化の従業員や関係会社からなる事業を束ねている立場から、様々な文化や習慣の違いを理解しオープンな態度で臨み、グローバル拠点の各々が本社、リーダーであるような自律した組織作りと運営が大切であると述べられた。
  • 最後の纏めでは「強い個の集団で、かつ、強いチーム力」とのタイトルで、当事者意識の大切さ、全力投球、率先垂範、現実を直視しコンフリクトを恐れず是々非々の議論を行うことなど、演者が考える"成果を出す強い組織"の思いが述べられた。

質疑応答
講演終了後5人の質疑がなされた。
  • Q1-1: 御林さんが富士フイルム入社を選んだ動機は。
    A: 学生時代には富士フイルムについてはよく知らなかった。富士フイルムは技術的にしっかりしていて研究をきっちりできる会社であると周囲から聞いたのが動機である。
  • Q1-2: 最近は就職してもミスマッチで数年で退社する人が散見される。御林さんの丁稚奉公時代の苦労から学生に与えるアドバイスはありませんか。
    A: 大学での研究が大変であり、それにくらべ会社の研究者生活は当初、楽であった。好きなことをやらせてもらったのではないかと思う。上司とぶつかりあってやりたいことをやらせてもらっていた。上司は3〜4テーマを見ていたが、私はそのうちの1つを担当しており、そのひとつを徹底的に深くやれば自分の方が判るようになり自分の意見も通るようになる。
  • Q-2: 御林さんは全体最適を常に目指すと言われるがプロセスの途中で全体最適を判断するときのアドバイスをいただきたい。
    A: 議論の中で判断するようにしている。常にトータルでどちらがプラスになりますかという議論を必ず行っている。時として他部門から越権行為だと言われることもあるが評価尺度としてどちらが良いですかいうことを持ち出すと、相手も理解してくれて、それで決定出来てきた。
  • Q-3: 日本の状況は今や先端分野でも中国、韓国、台湾などに接近されている。各社とも戦略を立てて事業を推進してきたが富士フイルムは利益を出し日本の大手電機メーカーは沈んだところが多い。その成功の大きな差はなにか。
    A: 私が担当してきたB to Bの事業で大切なことは@継続的Win-Winの関係を築くことAエレクトロニクスの分野では、ほどほどのオンリーワンサプライヤーになることである。
    例えていうと某電機メーカーとは以前Win−Winの関係でうまくいっていたが最近は余裕がなく  Win−Winの関係ではなくなってきている、厳しいコストダウンの要求をサプライヤーに突き付けてくる。半導体や液晶ディスプレイの世界のトップメーカーではまだWin−Winの余地が残っている。エレクトロニクスの分野の1社独占供給の部品は、供給メーカーが供給支配権を握ることになるので、買ってくれない。半導体、ディスプレーの分野では互換性が必要である。一時期に大量に世の中に出すことが必要な電機製品では、オンリーワンは危険な場合がある。そこそこ勝てるオンリーワンでなければならない。
  • Q4-1: 御林さんの事業ではおびただしい化学の領域が使われている。多くの関係部門が全部うまくゆくとは考えられない。開発のリーダーはどのようにコントロールして製品の納期遅れを防ぎ、品質の確保、そして働く人の処遇を考えてきたか。
    A: 確かに品質、納期のトラブルはかなり多く発生する。積み残した仕事が多く目標に届かなくても 先ずは80%の達成でも 製品ができるようにしておくことが必要である。妥協もやむを得ないケースがある。
  • Q4-2: 大トラブルに見舞われた時でも顧客の信頼を得るためのリスク管理はどうしたか。
    A: 各人が正直になれるようにすることに尽きる。嘘は必ずバレル。嘘をつかない事、またどれだけ、メンバーからも、顧客からも正直に言ってもらえるかが鍵である。
  • Q-5: 素材メーカー同士が連携して甘い果実を吸うことは出来ないか。
    A: れは成り立たない。継続的にビジネスを行っていかなければ事業は大きくならない。自分だけが儲かっていることが判ってしまうと、一時期は良い時代があるかもしれないが、継続的な注文は取れなくなる、と私は考えている。



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