本年の会合は5月7日から3日間東京ビックサイトで開催された。
本年も早稲田TLO(WTLO)の報告、展示はなく止むを得ず5月9日に再生医療に関する二つの特別講演、すなわち、東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 清水達也教授による「心臓を創る〜ティッシュエンジニアリングによる三次元組織・臓器構築への挑戦〜」および東海大学 医学部医学科 外科学系 整形外科学 佐藤正人教授による「関節治療を加速する細胞シートによる再生医療の実現」を聴講したので報告する。詳細はpdf資料をご覧いただくこととして簡単に紹介する。
1998年岡野光夫先生により開発され温度応答性のインテリジェント表面を用いて作製された細胞シート技術が現在では臨床研究が実施される段階にまで進展し、近いうちには実用化されるとの期待がある。
関連文献:
(http://www.cellseed.com/technology/004.html#Cell-sheet)
および
(http://www.waseda-oukakai.gr.jp/kouryuukai/kouenkai/images/kouenkai-04/okano-lecture.pdf)
清水達也先生の調査によれば現時点で細胞シートを用いて臨床研究が実施されているものは、角膜上皮(角膜輪部細胞や口腔粘膜細胞シートによる角膜の再生治療)、食道粘膜(食道がんの内視鏡手術後に口腔粘膜シートによる再生治療)、重症心不全(筋芽細胞シートによる拡張性心筋症または虚血性心疾患の再生治療),歯周組織(歯根膜細胞シートによる歯周組織の再生治療)、軟骨(軟骨細胞シートによる関節軟骨の修復再建治療)であり、最初に臨床研究が開始された角膜再生治療については日本における成績をもとに2007年からフランスで治験が開始されて2010年に25例の治験が終了し、翌年に欧州医薬品庁に販売承認申請がなされている。また、心筋再生治療については2007年から順天堂大学病院で臨床試験が開始され、続いて大阪大学 医学系研究科 外科学講座心臓血管外科の澤 芳樹教授にて臨床研究が実施され、昨年、テルモ株式会社による治験が開始されている。
清水教授の研究は、現在今後の課題としては心筋細胞シートの積層化して酸素、栄養を補給するための血管網を積層細胞シートに組み込む技術を確立することである。現在、血管内皮細胞と細胞シートを共培養することにより血管網新生を促進することができて、厚さ1mmの拍動心筋組織の再生を実現出ているとのことでした。このためにはスケールアップが必要となるので組織・臓器ファクトリーなどをつくり、より厚い心筋細胞シートを作製するよう研究中である。
一方、間節治療の細胞シートの作製は、間節軟骨は、耳や鼻の形を司る軟骨(弾性軟骨)と異なり、重荷に耐え、優れた潤滑性を発揮しなければならないので組織学的には硝子軟骨という特殊な軟骨でできていてなかなか難しい。
現時点の変形性膝関節症の治療法としてのトライアルはやはり非侵襲的に作製した細胞シートを積層化してそれを移植することにより関節内のプロテオグリカン流失を阻止し、関節液中の破壊因子から防御して成長因子の持続的供給源となり結果として軟骨修復・再生に寄与出来るかどうかを研究してみるのが早道であろうと考えて厚生労働省に「細胞シートによる関節治療を目指した臨床研究」の申請を行い6カ月後に実施して差支えないとの許可を取得、ヒト幹細胞指針に則った臨床研究で初めて変性軟骨にも適用し、実施中であるとのことでした。
このトライアルのなかで動物実験では移植した軟骨細胞シートは、関節内に留まり転移しないことが判明しており、また、積層化軟骨細胞シートをダメージなく長期間保存できる技術も確立してきたので低侵襲移植治療具を設計して東京女子医科大学先端生命医科学研究所の岡野光夫教授(新制24回生)を研究代表者とするスーパー特区「細胞シートによる再生医療実現化プロジェクト」 (http://www.twmu.ac.jp/ABMES/ja/supertk4th)のグループの一員として研究を進めて目標を達成したいと考えているとのことでした。
(取材:広報委員会 相馬威宣)