応化会中部支部(早化会)第1回交流講演会・懇親会の報告

演題:「東レ(株)名古屋事業場の変革と先端材料への取り組み」(2008年7月10日)

中部支部は会員の8割が現役である。各業界の第一線で活躍しておられる会員に講演をして頂き、講演と懇談を通して、会員間の親交をより深めようとの趣旨で第1回の交流講演会・懇親会を開催いたしました。
 トップバッターとして、東レ(株)名古屋事業場長の後藤会員に、東レ(株)が現在世界規模で展開している自動車・航空機向けの先端材料の取り組みについて講演をお願いしました。
参加者は総勢20名で内現役会員が12名を占め、本部より長谷川前広報委員長が出席されました。

講演概要

セミナー講師
  講演中の後藤氏

 先ず会社概要、昨年の業績、名古屋工場の沿革並びに炭素繊維複合材(CFRP)商品「トレカ」の用途について配布資料に沿って紹介がありました。 続いて、東レ(株)の中期経営戦略の中核を占める「自動車・航空機向けの先端材料の拡大戦略」について、その重要な遂行責任を担っている名古屋事業場の取り組みについて解説がありました。

 それは、国内の主要な自動車や航空機メーカーが集中している中京地区に、総合技術開発拠点「A&Aセンター」(Automotive&Aircraft Center)を設置し、東レ(株)の持つ素材と豊富な技術資源を組み合わせた提案を行い先端材料の事業を拡大して行こうというものであります。
「A&Aセンター」は、従来の「樹脂応用開発センター(PATEC)」に、本年7月完成した「オートモーテイブセンター(AMC)」と、現在建設中のCFRP技術開発拠点「アドバンストコンポジットセンター(ACC)」の3センターから構成され、2つの新センターの設置に約80億円を投資し、ACCに100名近い研究関係者を集める計画で、東レ(株)のこの戦略に賭ける並々ならぬ意気込みが伺えるものでありました。

 自動車用途の開発テーマは、@コンポジット材を熱硬化より熱可塑系へ変更し、低生産性を解消、モジュール化一体成型方法等により加工コストを大幅に低減するA次世代の燃料電池自動車向けの部材開発と、モーター/二次電池を含めたシステムの開発B内装材への非石油系素材の適用やカーエレクトロニクス/ナビゲーションシステム用の部材開発等が主要テーマで何れも先進性を高く評価できるものでした。

 一方航空機用途では、@既にボーイング社の中型ジェット機B787には機体構造重量の60%が、エアーバス社の超大型ジェット機A380でも20%までCFRPに置き換わっており、B787 は第1号機の就航が遅れているものの、多くの受注残と新規引き合いを抱えていることや、EUでは地球温暖化防止の観点よりCO2排出負荷分を運賃に反映させようとする動きが進んでおり、機体軽量化の動きに一段と拍車がかかっている事から、今後CFRPの消費量は着実に伸びることが見込まれていること。
A将来性の高い新市場は、乗客数100人程度、航続距離2000〜3000kmのリージョナルジェット機であり、既に国内では三菱重工(株)が国産初のジェット機MRJとボーイング社との合弁による次期ジェット機の開発に取り組んでいること。以上の航空機業界の動きに対応する形で東レ(株)はACCを立ち上げ、航空機メーカーと共同してコンポジットの開発を急ぐ戦略をとったことが紹介されました。

 最後に後藤講師は、CFRPを中心にした先端材料事業は、5年後には現在の3〜4倍のビジネスサイズに拡大可能で、「繊維の東レ」から、「先端材料の東レ」へ脱皮し、高収益体質の企業へ転換するとの確固たる抱負を述べられて講演を終えられました。

 質疑応答に移り、長谷川会員よりCFRPのライフサイクルでのCO2削減効果に関する質問が出され真剣に質疑応答がなされました。 後藤講師より、学会や経産省が既にLCAを終了し、両用途のCFRPのライフサイクルCO2削減量は定量的に試算されており、特に航空機の場合は約30%の削減が見込まれるとの報告であった。
 燃料電池自動車の場合、問題は本当に何時燃料電池自動車の時代が到来するのかである。比類なき軽量且つ高性能であるCFRPの唯一の欠点は価格であり、自動車向けには、航空機用の高性能グレードとは異なる中性能・中価格のCFRPの開発が待たれるところで、後藤講師はGFRPに競合できる価格になれば大きく拡大することを提言された。

 講演内容が、世界的に脚光を浴びているCFRPを中心にした先端材料の開発に関わる内容なので、現役会員にとっては関心も高く有意義な講演でありました。 又、参加者全員が、東レ(株)のアグレッシブな挑戦に感銘すると共に、足元中部地区で航空機業界を中心にビッグプロジェクトが進んでいることを知り、大きな感動に浸った講演会でもありました。


懇親会

 全員懇親会開場に移動し、近藤副支部長の挨拶と乾杯の音頭で懇親会が始められました。一献を傾けながら後藤講師を囲み質疑応答の続きや、会員の年代を超えた楽しい懇談へ移り懇親会は大いに盛り上がった。
 東京から参加頂いた長谷川前広報委員長より、最近の大学の状勢や応化会のトピックスに付きお話を頂き、中でも応用化学科への女子学生の進出には皆さん大変驚かされた。最後に牧野支部長より締めの挨拶があり、無事閉会となりました。(文責:堤正之)

講演会と懇親会写真

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