応化会中部支部(早化会)第3回須藤 雅夫氏の講演要旨(2009年7月17日(金))

演題:『燃料電池開発の最前線と未来社会』

7月17日(金) に第3回中部支部交流講演会が開催されました。今回より静岡会員も活動に加わって頂く事になり、早速、静岡大学須藤教授に講演をお願い致しました。講演参加者は総勢22名、内15名の方が現役会員であり講演内容に対する関心の高さが窺われました。山崎事務局長による講師紹介に続き、須藤教授による講演が始まりました。


須藤教授
講演される須藤教授


 講演の要旨

・冒頭、須藤教授が燃料電池の開発に取り組んで来た背景について以下の紹介がなされた。
(イ)静岡大学の周辺がトヨタ、ホンダを中心にした自動車産業の集積している地域であるから、燃料電池の開発研究は実地的且つ実践的研究であり極めて判りやすく歓迎されるテーマである。
(ロ)燃料電池そのものは、製品が電気という特殊性があるが水素と酸素を原料にした化学プラントであり、触媒化学や材料設計等に関わる化学技術系研究者の専門的能力を必要とするところが多い。
(ハ)長く取り組んで来たイオン交換膜の開発研究の成果が、燃料電池の主流になっている固形高分子形燃料電池(PEFC形)の研究開発に生かせる。

・燃料電池は、熱機関を用いず発電可能であるので、化石燃料の枯渇や地球環境問題への対応から太陽電池同様に期待度の高いエネルギー源である。しかも其の歴史は古く1965年米国宇宙船ジェミニ5号の電源に採用されたのが最初である。

・1970年代に、食塩電解技術で水銀に替わりフッ素系イオン交換膜が開発されて以来、この膜を応用した燃料電池の開発が進み、1994年ダイムラーベンツ社が初めて燃料電池車を走らせてからトヨタ、ホンダを始めとした各国自動車メーカーの燃料電池開発競争に火がついた。

・現時点での自動車用PEFC型電池の製造コストは、既に実用化されている家庭用のPEFC形の値段200万円/1kwから推定すると、自動車用に必要となる発電規模は70〜100KWであるので単純計算すれば100倍の2億円レベルの高額になる。

・トヨタやホンダは開発を急いでおり2015年には必ず売り出すと公表している。一方国も年間数百億円もの多額の補助金を数年前より掛け支援しており、現在国内に42台の試作車が走行試験を兼ねて使用されている。

・燃料電池の種類には@固体高分子形(PEFC形:常温〜80℃作動)Aりん酸形(PAFC形:200℃作動)B溶融炭酸塩形(MCFC形:650℃作動)C固体電解質形(SOFC形:1000℃作動)があり、このうち家庭や業務並びに自動車用途に実用化されているのは@とAであり、工業用分散電源用途のBとCは実証及び試験研究段階にある。
特に、今後自動車を始め多岐にわたる用途に応用される事が期待されているPEFC形は、発電効率の向上や水のドライアウトトラブル解消の為に、(イ)作動温度を〜150℃まで上げるに耐える膜の改良と(自動車用としては、エンジン始動時のアイドリング時間を極力少なくする為に低温作動が要求されているが)、(ロ)高価な白金触媒に替る触媒の開発に期待が掛かっている。

・燃料電池は、発電と同時に熱回収(PEFC形で回収熱/電気出力比=1.3)による温水が取れる為に其の発電効率は高く、PEFC形及びPAFC形で約40%、SOFC形では最大70%の高効率が得られる。燃料電池と他のエネルギーよる発電との発電コストを比較すると、電気事業連合会が試算した結果によれば、PEFC型電池で22円/KWhと、太陽光発電の1/2、化石燃料発電の2倍、原子力発電の4倍程度であり、そこそこの発電コストまで下がって来ているのが現状である。

・自動車メーカーや都市ガス各社及びその他多くの会社がPEFC形電池の応用開発に取り組んでいるが、事例として、(イ)静岡給食センターでの、残食物をメタン発酵させて得られるバイオガスから改質により水素を取り出し、燃料電池による自家発電を行っている実証プラントの例、(ロ)東京ガスによる家庭用コジェネ導入による経済性評価例(2000年度ベースで年間光熱費Δ20%、CO2排出量Δ24%。現状では年間光熱費Δ30%と公表)、(ハ)ヤマハ発動機開発のDMFC形(ダイレクトメタノール使用)燃料電池を積載した試作バイク等の事例について説明がなされた。――詳細は省略

・燃料電池に要求される要素技術群、即ち、電池単体ではガスと水蒸気/水及びプロトンの分散・拡散・凝縮・輸送等の速度過程と材料設計並びに要素部品に要求される機能、更にシステム全体では、燃料改質・調湿・伝熱・電流交換制御・システム最適化等の要素技術群とこれらの課題についての説明がなされた。――詳細は省略

・ダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC形)はユアサコーポレーション(現在のジーエス・ユアサコーポレション)が堀江謙一氏のマーメイドV号に搭載したのが実用化の第一歩で、これは3%メタノール水溶液を原料にした通信用専用電源として使用され、サンフランシスコに到着するまでにノントラブルで稼動した。
須藤教授の研究室では、高圧の水素を扱わずに実験が容易である所から、早速、ユアサコーポレーシヨンの協力を得てDMFC形の研究開発に着手、現在ではドイツの原子力研究所で達成した発電出力650Wレベルのものを作れている。DMFC形とPEFC形の研究開発では共通する課題が多いところから、DMFC形の実験で技術見通しをつけPEFC形へ応用展開する方法を採用している。

・DMFC形電池はモバイル機器用電源やアウトドア用電源としての用途開発が期待されておりこの為小型化・マイクロ化が進んでおり、既にノート型PC用の電源として実用化されている。

・PEFC形電池の電力出力密度を上げる為には、膜-電極接合体(MEA)の設計・製作が重要なファクターとなる。即ち、電極触媒の場合、触媒表面に反応ガス(O2)が拡散到着し、発生電気(e-)を導通し且つ製出物であるH+イオンが流れるように構造的に最も効率よいMEAを作る必要がある。
最近では、触媒溶液(触媒+Nafion+分散財)を直接電極基材に塗布するペースト法に替わり、触媒溶液(触媒+分散財)を直接電極基材に塗布後Nafion溶液を噴霧塗布するスプレー法の採用により、飛躍的な電力出力密度の向上(約2倍)が可能となった。

・燃料電池技術の未来へ向けての開発課題として以下の3つの課題を提案された。(イ)燃料電池の材料開発。特に重要なものは、構成部材、MEA及びセパレーターの部材開発で、自動車の使用年限を考えると10年以上の使用に耐えるものでなければならず、現在適用されているカーボンの代替が検討されている。(ロ)ガスと水蒸気/水の狭いチャンネル内での流動と伝熱及び反応解析による燃料電池開発用のモデリングとシミュレーション技術の開発。(ハ)LCA解析やコジェネシステムにおける熱と電力の分配など燃料電池システムに関わるプロセスシミュレーション技術の開発。

・家庭用エネルギーとして実用化が進んでいるPEFC形コジェネレーシヨンシステム「エネ・ファーム」の普及状況について説明された。
現在4社が製造販売しており、2008年末時点の実稼動台数は3307台で、今年は1500台の販売目標が立てられている。また2030年には250万台という極めて野心的な販売目標が掲げられている。
現状の価格は政府の補助(1/2補助、Max140万円)により自己負担額は約200万円である。設置によるメリットは年間光熱費5〜6万円の削減が可能で、1世帯当り年間1.2tonのCO2削減に寄与すると試算されている。

・静岡県では、CO2の年間排出量を2010年までに5%削減する目標を掲げている が、他の自然エネルギーへの代替はほぼ予帝どおりに進んでいるが、燃料電池への代替が進んで居らず、CO2 削減目標は未達に終わりそうとの悲観的な見通しも紹介された。

・最後に、須藤教授は「燃料電池は使いたい時に必要なだけ使えるという大変便利なエネルギーであるので、水素を何処からどの様に持って来るか工夫する必要はあるものの、次世代の分散型エネルギーの主力になるだろう」と述べられ講演を終えられた。

                                                      
 (文責:堤正之)
    

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