応化会案内



応用化学会の魅力

応用化学科教授・応用化学会副会長 菊地英一(新制14回卒)

菊地教授

 約2年前に会長就任が決まった河村 宏先輩から副会長就任を要請された.応用化学会と応用化学科との意思の疎通をはかる役目ということでお引き受けした.以前にも庶務理事や副会長を仰せつかって応用化学会とは関わってきたが,今回お引き受けして感じたのは,“応化会がこれまでと違ってちょっと面白いぞ”ということである.これまでの会の活動は年長の卒業生を中心とした,母校への回帰心,応用化学科への帰属意識を満たす同窓会機能がほとんど全てといってよかった.ここ数年で活性化委員会を中心とする活動が功を奏した結果,年長会員中心の懇親の場に加えて,学生会員の視野を広げる先輩たちからの啓発の場,活発なホームページ更新や講演会などの開催による情報交換の場などである.さらに言えば,これらの場を通して得られる最も貴重な経験は,人脈,すなわち人的ネットワークの形成ではなかろうか.

 応用化学は広範な領域を包括する学問分野である.したがってさまざまな分野で活躍している(していた)会員がいる.さらに応用化学科は,理工学部の他の学科とは違って,90余年の間学科名はそのままで,かつ時代時代の学問の進歩を取り入れて進化してきた伝統がある.また,多数の卒業生を擁しており,化学関連の世界に限らず,広範な科学と技術の分野,経済界や政界,ジャーナリズムや芸術その他諸々の分野で活躍している会員がおられる.

 このように,層が厚く,また広範な分野で活躍する会員の方々との交流を通じて,自らの視野を広げ,人間的な意味でも大きな啓発を受けられることは,本会に参加する最大の魅力と感じる.専門分野を越えた幅広く,しかも高い視点で物事をみることができることは,社会が複雑多様化するにつれ,旧来の縦割り化された専門分野の中では処し切れない課題が山積している今日にあっては,この上ない財産であると思う.

 さらに,人的ネットワークの専門書を紐解くと,人間社会におけるネットワークにはさまざまな型があるそうだ.そのひとつがスモールワールド・ネットワークと言われるもので,比較的少人数のクラスター化された複数のグループによって構成されるが,一部のクラスターのメンバーが,はるかに離れた別のクラスターのメンバーとも散発的に繋がっているようなネットワークだそうだ.世界中の誰もが6段階の知り合いを経由すれば全員知り合いであると言われており,実際にも種々の実験によってその妥当性がかなりの程度確認されているとか.応用化学会を出発点として,人的ネットワークが大きく広がる可能性を秘めている.

 さて,教室との関係で申すならば,応用化学会の会員はもっと積極的に教室の先生方を利用したほうがよいと思う.大きな成果が得られる場合もあろうが,それ以上にネットワークが広がり思わぬ発展もありうる.これは教室の先生方にとっても大いにありがたいことでもある.私も嘗て教室に残った直後で研究費に不足していたときに,支援してくれたのは,ある企業の研究所長で,応用化学科の先輩OBであった.出身研究室は異なっていたが,研究内容に興味をもって,訪ねてこられたのがきっかけであった.その後その共同研究を通して,複数の学会で,さまざまな産業界の方々と人的ネットワークができた.

 最後に,「会員諸君,応用化学会をもっと活用しよう」.人脈の形成と活用は極めて有意義なことで,専門や世代を越えた交流は,人生観を変えることだってあるだろうし,何より人生を豊かにしてくれる.

以上